【ストーリー】土壌汚染されている為、金額はかなり値引きされており…

(※架空/二次SS) 双翼のロストエデン
【土壌汚染されている為、金額はかなり値引きされており…】

 

王侯会議という定例行事を終え、参加者皆が解散し始める。
そんな中、帰り際の雑談とイザークがアルドベリクに声をかけた。
 
イザーク「おい、この前ルシエラに払い下げた汚染された土地だが-。」
どうだった?と、天界育ちとは思えぬ、魔界じみた笑顔での質問だった。
 
アルドベリク「待て、なんの話だ?」
イザーク「聞いていないのか?」
アルドベリク「ああ。」
アルドベリクに心当たりはない。
 
アルドベリク「……ルシエラ。」
ルシエラ「なんですかー?」
魔界の王侯会議に違和感なく出席していた天使は、白い羽をふわりと揺らしながら、魔王へと近づく。
 
アルドベリク「なんの話だ…。」
一言一句、噛みしめるように発音された言葉は、詳細を問い詰めようとする意志が込められている。
ルシエラ「おやおや。イザークさんはおしゃべりですねぇ。」
アルドベリクの意志など、どこ吹く風でさらりとかわし、ルシエラはイザークを責めた。
 
イザーク「いや、まさかまだ秘密にしていたとは…。」
責められ、ばつが悪そうにイザークが詫びる。
 
ルシエラ「? 秘密になんてしてませんよ。」
アルドベリク「秘密でないなら、なんだというんだ。」
ルシエラ「訊かれなかったので、言っていなかっただけです。」
アルドベリク「………。」

 

確かにアルドベリクからは、訊いていない。
が…そもそも土地のことなど知らなかったのだから、訊きようなどない。
 
ルシエラ「そういうの、秘密っていいます?」
アルドベリク「……………いや。」
ルシエラ「でしょう。」

 

アルドベリク「…まあいい。秘密でないなら、買い取った土地とやらについて詳しく話して貰おう。」
先ほどより、直接的な言葉でルシエラに詳細を問う。
 
アルドベリク「土地というからには、それなりの金額だろう。いつの間にそんな金を…。」
ルシエラ「ちゃんと自分のポケットマネーから出しましたよ?」

 

アルドベリク「そういうことじゃない…。いやそもそも必要な土地なら俺が買うべきだろう。」
イザークの言っていた土地の詳細は不明だが、魔王の領地として必要ならば自分が動くべき案件だ。
 
ルシエラ「土地の贈り物ですか?さすが、魔王は違いますねー。」
アルドベリク「いや、贈るつもりは…。」
ルシエラ「“俺の配下になるなら、この土地をくれてやろう!ふはははっ!!”」
アルドベリク「おい…。」

 

いつものことであるが、会話の主導権を握られ、アルドベリクの望む方向へ話が進まない。
なお、イザークはふたりのやりとりが数回往復した段階で、生温かい目を向けながら退出している。
 
ルシエラ「まあ、そろそろ頃合いですし…。」
ルシエラはうーーんと首をひねった後、ぱんっと手のひらを合わせた。
 
ルシエラ「これから“汚染された土地”へ行きましょうか。」
アルドベリク「なるほど…。」
口で説明するより、直接見ろということだろう。
わかりやすい提案に、魔王はいいだろうと頷く。
 
 
ルシエラの案内で、辿り着いたその土地は確かに“汚染”されていた。
魔界にとっては、これ以上ないほど…。
 
そこは魔界にありながら、天界の花が咲き乱れる土地であった。
天界の花がこれほど見事に咲くということは、この土地は天界の気に“汚染”されているのだ。
 
すぅっとルシエラが、息を深く吸い込む。
ルシエラ「ふふ、いい香り。」
アルドベリク「ああ…。」
同じように花の香りを感じとった、アルドベリクの口角が僅かに上がる。
 
彼らにとって、呪いの地とも、祝福の地ともいえる花の咲き乱れる場所。
そっくりな風景を前に、アルドベリクは不思議な心地だった。
アルドベリク「…………。」
 
さわっと風に押された花が、アルドベリクの足元へ花弁を寄せた。
動きにつられるように、視線を向ける…。
 
――噛みつかれた。
花に…。
アルドベリク「っ!?」

痛かったわけではない。
が、予想外の攻撃にアルドベリクは驚きを隠せない。
噛みついてきた花をよく見ると、それは魔界の花であった。
 
アルドベリク「…おい、ルシエラ。」
ルシエラ「んんーなんですか?アルさん。」
アルドベリク「天界の花に紛れ…その…魔界の花が咲いているんだが。」
よくよく見ると、僅かではあるが他にも魔界の花が紛れている。
 
ルシエラ「ふっふっふー!」
よくぞ訊いてくれたというように、天使が自慢げに口を開く。
 
ルシエラ「汚染に強い個体を選別して、ゆっくり増やしているんです!」
アルドベリクに、ここを見せるのが遅くなったのは、それが原因だったのだろう。
ルシエラ「今は1対9くらいですねー。」
いずれ5対5にする予定だと、ルシエラは言った。
 
アルドベリク「…何故、そんなことを。」
ルシエラ「せっかくなら、両方楽しみたいじゃないですか。」
アルドベリク「そ、そんなものか…。」
とはいえ、無害できれいな花だけで満足しないあたりが、“彼女”らしい。
 
見かけは記憶の地でありながら、その実…天界と魔界両方の花を咲かせる場所。
それは新たな“可能性”を歩む、自分たちの関係にも似ているように思えた。
 
がちがちと牙を鳴らす花から距離を置き、アルドベリクは再び前へ視線を戻す。
アルドベリク「………。」
ルシエラ「…………。」
アルドベリクに倣って、静かに風景を見ていたルシエラだったが、暫くして穏やかな空気をぶった切るような明るい声を出した。
 
ルシエラ「あっそういえばですね。ここ私有地なので…アルさんにお見せするのは今回が最初で最後ですから。」
確かに、ルシエラ自らが買った土地である。持ち主が否と言えば、アルドベリクは訪れることができない。
 
アルドベリク「……………そうか。」
ルシエラ「……。」
アルドベリク「……………。」
 
ルシエラ「ぷっ!冗談ですよー。アルさんがどうしてもって言うなら、また今度も連れてきてあげます。」
アルドベリク「ああ、どうしても…だ。」
ルシエラ「はーい!」
ぱちりと弾けた毒花粉を避けながら、色の違う二種の羽がばさりと揺れた。
 


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