【ストーリー】ラディウスに仕込まれた剣技

(※架空/二次SS) 喰牙RIZE
【ラディウスに仕込まれた剣技】

 

ジャビー「うーーん…。やっぱあっちか…そうだよなぁ。見かけはあっちの方がー…。」
野営地近くで、ぶつぶつ自問自答しているジャビーに気づき、一時旅路を共にしている仲間が声をかける。
 
ラディウス「なんだ。怪我の後遺症でも出たのか?」
ジャビー「うぉおおおおあ!びっくりしたぁ!?いきなり背後に立つんじゃねえよ!?」
ラディウス「思いっきり、正面から声かけてんだろ…。」
ジャビー「気持ち的に背後から驚かされたんだよっ!!」
ラディウス「………。」
 
シューラ「あはは、ラディウスさん存在が怖いからねー。」
ラディウス「あ?」
ジャビー「ひぃいいぃいいい!」
不意をつかれたせいか、ジャビーの態度は以前のアスピナのようだった。
 
ラディウス「………。」
シューラ「あれ、ラディウスさん傷ついてる?」
ラディウス「傷ついてねえよ。」
ジャビーの反応に、ぶすっとむくれた顔を見せたラディウスは年齢より幼く見える。
 
シューラ「またまたー。」
シューラにとっては微笑ましかったが、ジャビーにとっては怖い顔の人が不機嫌になり、より怖くなった風にしか見えない。
 
ラディウス「それで、どうしたんだよ?」
ジャビー「いや、いい!今ので決心した。じゃあな!」
言うや否や、ジャビーはラディウスとシューラの前からいなくなった。
 
 
ジャビー「お、いた。」
目的の人物を見つけたジャビーは早速目的を果たすべく、すざぁっと綺麗に膝を折った。
 
スライディング土下座である。
 
それは、どこかの氏族が物事を円滑に進める時に利用していた―と言われている儀式だ。
立ち寄った町で耳にした程度の知識だったが、教えを乞おうと考えた結果、ついやってしまった。
 
ユウェル「…その…大丈夫か?」
下が草地であったため、怪我はしてないだろうが…。
彼の目的を知らぬ側としては、転んだようにしか見えない。
 
ジャビー「あんたに頼みがある!」
下げた頭を、ばっと上げた視線の先にいたのは、心配の声をかけたユウェルではない。
ミハネ「……俺に、か?」
ユウェル「こいつに…?」
ミハネだった。
 
ジャビー「あぁ、俺によ。なんつーか…その稽古をつけてくれねぇかと…。」
ユウェル「正気か!?」
ミハネ「ほう。」
ジャビー「やっぱりちょっとは……もうほんのちょっとくらいはよぉ!自分の氏族に恥じないようにと思って…。」
ふいに、腰にある弟の形見の剣が熱を帯びたように感じた。
 
ミハネ「いい心がけだ。」
強くなりたい、そう足掻くジャビーに、ミハネは己の出来る限りの鍛錬をしてあげようと思った。
ミハネ「では、奥へ行くぞ。」
ジャビー「お、おおう!!」
 
野営地からどんどん離れて行くふたりの背を見ながら、ユウェルが深いため息をつく。
アスピナ「あ、あの…。」
それまで静かに成り行きを見ていたアスピナが、ユウェルのため息に不安を感じ、口を開いた。
アスピナ「何か…まずかったの?」
アスピナの見ていた限り、ジャビーの要望がミハネに受け入れられた。
問題など、なかったように思える。
 
ユウェル「そうだな…。とりあえず折角生き延びた命が、あの馬鹿に消されない事を祈ってあげてくれ…。」
アスピナ「???……うん。」
よくわからなかったが、ユウェルに気にするなと優しく言われ、アスピナの疑問は消えてしまった。
 
 
ぼろぼろになったジャビーが、ミハネに担がれ、野営地に戻ってきたのは翌朝の事だった。
ジャビーの疲弊は酷いもので、ここから暫く移動する事が出来ないほどだ。
 
数日間の休養を得、やっと動けるようになったジャビーは、目的の人物の前で、どざぁっと倒れこむように膝を折った。
 
二度目のスライディング土下座である。
 
正直、まだ体が回復しきってないせいもあり、倒れこんだに近い。
ぐぐっと腕に力を入れ、顔を上げる。
ジャビー「頼む!俺に稽古をつけてくれ…。」
ラディウス「………。」
前回の事のあらましは、ラディウスにも伝わっている。
 
ラディウス「てめえの牙を磨こうって根性はいいけどよ…。なんでそもそも俺じゃなくてミハネを頼ったんだよ?」
実力でミハネに劣っていると言われたようで、思わず顔が歪む。
 
ジャビー「だだだだだってよぉ、おめーの方が顔怖ええじゃねえか!!」
ラディウス「は?」
予想していなかった理由に、ぽかんと口が開く。
 
ジャビー「でもよ…。あいつのやばさは異常だ異常!前以上に死ぬかと思ったぜ…。そんで…次あれをやられたら生きて戻れねえ!?…となるともうあんたにしか頼めなくてよぉ…。」
ラディウス「……顔が怖えって、てめえ人の事言えるツラかよ。」
呆れ、文句を返したものの、強さが基準ではないと知り、ラディウスはあっさり頼みを聞き入れる。
 
その後、旅の合間に受けたラディウスの指導は的確だった。
長くひとりで技を磨いていたという割に、ラディウスは教える事が上手い。
以前、彼が所属していたという騎士団の影響もあるのだろうか…?
 
ジャビー「ううぅぅぅうううっ…。」
数度の打ち合いを終え、ジャビーの目からは涙が出ていた。
ジャビー「すっげーまともだ!!」
ラディウス「泣くほどかよ…。」
厳しくはあったが真っ当な訓練に、ジャビーの涙は止まらない。
 
疑問を覚えたラディウスは、近くの切株に座り米を握っていたミハネに問う。
ラディウス「…ミハネ、お前何したんだ?」
ミハネ「極めて初歩的な鍛錬だ。」
 
ジャビー「しょ初歩的ぃいい!?」
ミハネとの鍛錬を思い出したのか、ジャビーの体が小刻みに痙攣し始めた。
 
ユウェル「本当にすまない。アホなんだ…。」
ジャビーの様子から凄惨なものを感じ取ったユウェルが、保護者責任とばかりに謝罪する。
ミハネ「…?」
しかし原因である当の本人は、きょとんとするばかりだった。
 

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