【ストーリー】オ宝!

(※架空/二次SS) 神都ピカレスク
【オ宝!】


 

この異界にもだいぶ慣れ親しんだな、と思いながら、
君は文化が雑じる道を早足に通り抜ける。
昼を越え、日差しはやわらぎ、道行く人々はどこか気怠そうに見えた。

外で一通り噂を集め終えた君とウィズは、師匠のおやつ休憩を取るため、
現在の拠点である新聞社『カイエ・デ・ドロゥボー』へと足を進める。

ケネス「よお。」
社の扉を開けた先には、同僚であるケネス、ギャスパー、ちゆうに加え、ヴィッキーがいた。

ウィズ「ただいまにゃ!私のおやつはどこにゃ?」
おやつまっしぐらな師匠を横目で見送り、君はソファーに腰を下ろす。

ふうと一息吐いてから、先ほどの取材中、拾った荷物を机に並べる。
ゴトリ…。チャリン…。ドサッ…。
ギャスパー「……おい、ちょっと待て。」

なんだろう?師匠が全員のおやつでも食べてしまったのか。
君はギャスパーの睨むような視線を受け、師匠を見た。

君の分のおやつはウィズに奪われていたが、さすがに他の人の分は残ってそうだ。
ウィズ「にゃはは!このお菓子は弟子にはまだ早いにゃ。」

太るよまったく…と苦笑してから、ギャスパーの視線に意識を戻す。
ギャスパーの目は、君がたった今出した荷物に注がれていた。
これ?と君は彼に差し出す。

ギャスパー「それだ…。」
ギャスパーはさっと薄手の白い手袋をはめ、君が出した品々を丁寧に確認し出した。

ギャスパー「これは…T国の古銭、まさかこの黄金像は……。おいお前、これをどこで盗んできた。」
君は盗んでいないことを伝えてから、宝を手に入れた経緯を話した。

ギャスパー「は?」
君はもう一度説明した。
ギャスパー「…………。」
もう一度言おうか?
君は戸惑いつつも説明を繰り返す。

ギャスパー「……………………。」
ギャスパーの反応が無いので、君はまた説明を繰り返した。

ケネス「おい、ギャス何回訊くんだよ。脳みそとけてんのか?」
話が進まないことに焦れたのか、繰り返すことしかできなかった君への助け舟だったのか、ケネスが会話に口を挟む。

ギャスパー「とけてなどいない。…じゃあなんだお前はこいつの言うことが理解できたとでもいうのか?」
ケネス「いや、俺だってわかんねえけどよ。けどこいつは嘘ついてるわけじゃないだろ。」
嘘でないなら、これ以上同じ問いを繰り返すのは不毛だ。

ちゆう「ま、確かに黒猫はん無駄に澄んだ瞳してますしなー。」
君はまっすぐ一同を見つめ返す。

ヴィッキー「じゃあ、混乱している貴方の代わりに、あたしが訊いてあげる。」
ギャスパー「…………。」
ヴィッキー「はい、このお宝はー?」
ヴィッキーがひょいっと、水晶で出来た髑髏をかかげる。
それは[ス]のつく精霊を連れ路地を歩いていた時に、手に入れたものだよと君は言った。

ヴィッキー「はい、じゃこれ。」
また別の品をひょいっと持ち上げる。
それは[ヴ]のつく精霊を連れ路地を歩いていた時に、手に入れたものだよと君は言う。

ヴィッキー「ですって?」
ギャスパー「………………。百歩譲って、宝をそうして入手したことは認めよう…だが。」
君はなんだろうとまっすぐな瞳を返す。

ギャスパー「何故、世界に一点しかない国宝級の宝とまったく同じものが何個もあるんだ!」
君はきりっと答える。
同じ条件で、同じ路地を何回か歩いたからだよ。

ギャスパー「ありえない…だがどうみてもレプリカなどではない。一体どういうことだ…。」
ちゆう「にしても、ちゃっかり自分のものにしてはるなんて、黒猫はんもやり手ですなあ。」

ウィズ「にゃはは、移動先で手に入るものは、積極的に取っていくのがウィズ流にゃ。」
それで命が助かったことだってある。と君はしみじみした。

焦燥するギャスパーを残し、他の面々はまったりとした昼下がりのけだるさで会話続ける。
ヴィッキー「あなたの存在自体、まー都市伝説みたいなものだしね。」
ケネス「そーそーいまさらだぜ。」
ギャスパー「ぐっ…。」

ちゆう「ええやないですか~真面目なギャスはん、素敵やと思います~ 。」
ケネス「いやいや、こいつのこれは神経質なだけだろ。」

ちゆう「ええやないですか~神経質。ストレスでツルツルにならはったら、ライバル減りますしー。」
ケネス「お前も中々ひでえな。」

今久留主「トトトゥルトゥル!?いや僕はボーボーですけッ!?」
ヴィッキー「はあぁ!」
勢いだけで突如、会話と室内に入ってきた今久留主を、ヴィッキーが見事な回し蹴りで締め出す。
バァンッと音を立て扉が閉まった。
丈夫な扉だなと君は思った。

ウィズ「いまさら来ても、お菓子はもうないにゃ!」
ケネス「いや、そういう話じゃねえよ。」

そのやりとりを見ていたギャスパーは、すっと頭の熱が冷めた。
ギャスパー「…………考えるだけ無駄、か。そうか…そうだな…もういい黒猫、それは発見者のお前に一任する。俺は…いや私は何も見ていない…見ていないからな。」

ケネス「おーおー必死だな、ハゲんなよギャス。」
今久留主「だから僕はボーボッ!?」
ヴィッキー「はぁっ!」
再び勢いだけで会話と室内に入ってきた今久留主をヴィッキーが、二度目の回し蹴りで締め出す。

その様子を見て、今日も平和なおやつ時間が過ごせそうだなーと、事件慣れした君はのんびり思い、
無くなったお菓子の代わりに、角砂糖を多めに落としたコーヒーをゆっくりと口に含んだ。

 


異界(イベント)別SSリンク集