【ストーリー】夕闇MARELESS

(※架空/二次SS) MARELESS
【夕闇MARELESS】

 
日が沈み、ぽつりぽつりと街に光が灯ってゆく。
小高い丘からその経過を見ていたロザリアは、灯りの先を見定めるように目を細めた。
あの灯りの先、ひとつひとつに人が生活している。
 
さわりと風に黒髪を揺らされ、不思議な気持ちになる。
悲しいわけではない、寂しいわけではない。
ただここにいる。
…そんなよくわからない想いを抱き、ロザリアは足元の草地へ視線を落とす。
 
あたりに光源のないこの丘では、近くにある自分の手すら闇に隠されていく。
ロザリア逢魔が時…だっけ。」
その単語は母から聞いたのか、夢で聞いたのか…。
 
日が暮れ相手の顔がわからぬ薄明は、バケモノに遭いやすい時間だとか。
詳しくは覚えていないが、人が消えやすい…なんていうのも言っていたろうか?
 
かさりと近くのしげみが揺れる。
バケモノかな?と、のんびり思考し顔を向けた先には、薄闇をまとう人影があった。
 
ノクス「お前…またこんなところにひとりで…。」
輪郭からそうではないかと思ったが、やはりノクスだった。
危ないとまでは言わないが、明らかに心配してくれている彼の声音にふっと笑いが漏れる。
 
ノクス「なんだ、薄気味悪い。」
ロザリア「失礼ねー。」
ならば何故笑ったとノクスが問う。
 
ロザリア「んー…バケモノでも出たのかと思って。」
ノクス「は?」
ロザリア「これくらいの時間の話よ。 逢魔が時ーだかなんだかで、バケモノとかそういうのがよくでる時間ーだとかなんとか?」
ノクス「……ほう。」
 
さくさくと草を踏む音がする。
この夕闇でも顔が見てとれる距離で、ノクスは動きを止めた。
 
ロザリア「信じた?」
ノクス「いや。 …そもそもバケモノなら、いつも散々遭っているだろう。」
ロザリア「そういやそうね。しょっちゅう遭ってるわ。」
ここ<ラスト・リゾード>では、バケモノ<ナイトメア>と遭う事など日常茶飯事だ。
 
ノクス「今もな。」
ロザリア「うん?」
言われ周囲に意識を向けたが、<ナイトメア>の気配はない。
 
ロザリア「?」
からかわれたのか?とノクスを見てみれば、そのような色は彼から感じられない。
 
ノクス「俺もバケモノだ。」
…多分な、と皮肉を込めてノクスが笑ってみせる。
記憶がないのだ、“そう”じゃないという確証はない。
 
ロザリア「ふっ…。」
ノクス「何がおかしい?」
 
ロザリア「悲観的ね。」
ノクス「お前が能天気すぎるんだ。」
 
ロザリア「そうね。 けどまーあなたが悪魔だろうと、…ないだろうけど天使や神だったとしても、今ここにいるノクスはノクスでしょ。」
 “ノクス”というバケモノであるなら、別に問題ないんじゃない?と笑ってみせた。
 
ノクス「………。」
ロザリア「んん、ああ。 バケモノっていうなら、<ナイトメア>と戦い続けてる私もバケモノだったわ。」
なんだバケモノ仲間ね!と、もっと強く笑ってやる。
 
ノクス「……バカは気楽だな。」
ロザリア「能天気ですから。」
 
夢見が相当悪かった、それだけでこんなになるなんて…らしくない。
そう、夢に引きずられるなんて、”私らしくない”!
 
夢の中の死は、何度だって越えてきた。
そうして今自分はここにいて、“生きている”それが現実だ。
 
この数分で何かが変わったわけではない、けれど互いに少し言葉を交わした。
それがこんなにも救いになる。
 
ロザリア「ありがとね。」
ノクス「気持ち悪い礼はやめろ。」
ロザリア「ほんっと、失礼ねーーー!」
素直に礼を言ったというのに、薄暗い中でもわかるほど不機嫌な表情で返された。
 
ノクス「まあ、いい。そろそろ行くぞ。」
ロザリア「あら、エスコートしてくれるの?」
 
ノクス「…そうだな、食堂までならエスコートしてやってもいい。 礼を言うくらいだ、もちろんおごってくれるんだろう?」
ノクスがくっと口の端を僅かに上げ、手を差し出す。
 
ロザリア「えーー…、お金ないのにー。 あ、じゃあ手作り!それなら多少安上がだし、特製のアッツアツグラタンを作っ…。」
ノクス「いらん。」
 
ロザリア「えーーー…。」
ノクス「せめてもっとましな料理を作れるようになってから言え。」
 
ロザリア「なるほど、アッツアツでおいしい特製グラタンをご所望ね。」
ノクス「……訂正する。冷めてもうまい料理を作れるようになってからにしろ。」
差し出した手と笑みをあっさり引っ込め、ノクスは渋面を作る。
 
ロザリア「ええー難しくなってるじゃないのよ!? もーアツアツのおいしさを認めなさいってばー。」
ノクス「知るか。」
ふたりの足はさくさくと草を踏みしめ、光の灯る街へと進んでいく。
それを追いかけるように、丘からさわりと柔らかい風が吹いた。