【ストーリー】闇討ち授業参観

(※架空/二次SS) 聖サタニック女学院
【闇討ち授業参観】

    
ここは魔界の底にある女の園、聖サタニック女学院。
本日の授業はすべて終わり、教室内に残っている生徒はすでにまばらだ。
 
残る生徒のうち、ひときわ小さい少女が口を開く。
ルルベル「闇討ち授業参観?」
 
少女…ルルベルの周りにいるのは、話を持ち掛けたミィアのみ。
ミィア以外の行動を共にすることが多いクラスメイトは、それぞれ用事があったらしく、今この場にはいない。
 
ミィア「そう、闇討ち授業参観!」
問われ、先ほどルルベルに言った言葉をミィアが繰り返す。
 
授業を参観するということは、生徒たちの親が子の授業風景でも見に来るのだろう。
だが、邪神であるルルベルには親どころか肉親もいない。
ルルベル「邪神には関係ないだろ。」
 
自分には無関係だと思い発したルルベルの考えは、ミィアの元気な声にぶった切られた。
ミィア「ううん、ルルちゃんにも関係あるよ。」
 
ルルベル「なんでだ?みんなの親とかが来る日だろ?」
ミィア「違うよ、来るのは誰かだよ!」
ルルベル「は?」
 
ミィア「どっかの誰か!!」
どっかの誰かが、来る日らしい。
 
ルルベル「……は?」
ミィア「どっかの誰かがね、闇討ちに来るんだよ!」
どっかの誰かが、闇討ちに来る日らしい。
 
ルルベル「………は?」
ミィア「どっかの誰かが授業中に闇討ちして来るからね、ルルちゃんも狙われるよ!」
 
ルルベル「………………は?」
百歩譲るとして、親ではなくどっかの誰かが来ることまでは、ルルベルも理解した。
しかし……。
 
ルルベル「いや…どっかの誰かが、授業を見に来るんだろ?」
ミィア「違うよ。 だから闇討ちだって!見るだけじゃなくて襲って来るよ。」
 
ルルベル「じゃあ闇って…。」
何かの比喩ではなく……。
 
ミィア「うん、授業中突然暗くなるから気をつけてね!」
言葉の通りだった。
どっかの誰かが、突然暗闇になった教室で襲って来る日らしい。
  
ルルベル「…えーーーー。」
ミィア「頑張って、返り討ちにしようね。」
 
ルルベル「ああ、倒していいのかー…。」
さすがは魔界だった。
 
 
そして、参観日当日。
授業中、本当に前触れなく…ふっと教室内の明かりが消えた。
 
闇と共に、一気に教室内に少女たちの気合があふれる。
…参観者を殺す気満々の、殺気だった。
 
女生徒「うぉおおおお!死ねえい!」
パブロ「ぐあ!?」
パブロ先生が死んだ。
 
ミィア「うっしゃーー!」
パブロ先生の死を皮切りに、戦いが始まる。
 
ルルベル「……!!?」
ルルベルも慌てて席を立ったが、混戦の熱気に押され、その場から動くことができない。
邪神の瞳が闇に慣れ、参観者を捉えた頃には、教室内に立っている生徒はルルベルのみだった。
 
周りの生徒はすべて床に突っ伏している。
とはいえ、疲れて動けないといった様子で死者はいないようだ。
パブロ先生を除き。
 
周囲を確認したルルベルは、闇の中たたずむ参観者へ視線を戻す。
参観者は、着ぐるみをまとっていた。
風体だけ見るならば、かわいいのかもしれない。
 
その姿に少し勇気づけられたルルベルは、参観者へ攻撃を仕掛ける。
ルルベル「…いっ…行くぞ、やああ!」
勢いだけしかない突進は、ぼふっと着ぐるみの腹に突っ込み動きを止めた。
 
ルルベル「~~~~ううっ。」
転びかけ、顔からぶつかったせいで鼻がつーんと痛む。
 
???「…………。」
その動きを静かに見ていた参観者は、着ぐるみの翼でルルベルの頭ぽふぽふと叩いた。
 
ルルベル「へ…?」
よく頑張ったと褒めるような優しさを受けた数秒後、ルルベルの視界はぐるんと反転する。
 
ルルベル「ぅわあッ!!?」
小さな体は天井ギリギリまで飛ばされ、くるくると回転しながらマパパの上に着地した。
 
マパパ「ま、ぷぅっ!」
視界がぐわんぐわんと揺れる。
 
ルルベル「うえぇ~。」
ルルベルが目を回している隙に、参観者はこの教室での役目は果たしたとでもいうように、扉へ向かう。
 
???「……………!」
扉をくぐる途中で、また遊ぼうぜとでも言っているかのように、翼をふぉんと上げ、参観者は廊下の闇へと消えた。
 
 
しばらくのち、回復した生徒たちは、互いの健闘を称えあっていた。
シルビー「今回の参観者は強かったわねー。」
ミィア「あ、でもルルちゃんは、一撃入れたね!」
ルルベル「ふ…ふふん!」
ウリシラ「うん。すごかったね。」

 

ミィア「うんうん!一撃入れられたの、ルルちゃんだけだもんね!」
ルルベル「邪神アタックがもう少し深く食い込んでいれば、参観者の命はなかったぞ。」
ミィア「おおおぉお!」
 
どの少女も爽やかな汗を流した授業のあとのような、すっきりした顔つきだった。
こうして闇討ち授業参観は幕を閉じた。
 
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時は闇討ち授業参観、開始数時間前へさかのぼる。
 
ここは魔界の花園、聖サタニック女学院。
その学内にある一室、理事長室に魔王アルドベリクは来ていた。
 
王侯会議関連の公務で、女学院へと呼ばれたアルドベリクは、
人気のない裏口から密やかに理事長室へ案内され、
眼前に置かれた物体を見て、眉間に見事な縦線を作った。
 
アルドベリク「………なんだこれは。」
ルシエラ「クドラくんですよ?」
 
アルドベリク「………。」
何故か共について来たルシエラの返答に、そういうことを訊いたわけではないと視線を送る。
 
ルシエラ「だ・か・らークドラくんですよ?」
…だから…そういうことを訊いたわけではないと、アルドベリクは思った。
問題は、これを魔王たる自分が着ろと言われている点についてだ。
 
ルシエラ「ほうほう、若い女性を困らせたいとー。」
アルドベリク「何故…そうなる。」
 
ルシエラ「おやおや、ここは女の園ですよ?そんなうら若き乙女ばかりの花園にアルさんみたいな怖ーい魔王が来たら、みんな怯えて泣いちゃうじゃないですかー?」
アルドベリク「…………。」
 
ルシエラ「ほら、クルスさんだって着てますよー。」
クルス「!!」
呼ばれて手…もとい着ぐるみの羽をふぉっと上げたのは、王侯会議のメンバーにして、学園の理事長でもあるクルス・ドラクだった。
 
アルドベリク「いや、そもそもお前はここの理事だろう…。」
そう理事だ。
この理事長室の主でもあり、そして今回の仕事の依頼主でもある。
 
もちろん普段から生徒たちと面識はあるし、当然顔を隠す必要などかけらもない。
何故、着ているのだと視線で問う。
 
クルス「ノリですよ!!」
アルドベリク「……………。」
訊くだけ無駄だった。
 
ルシエラ「ささっアルさん、とっとと着替えましょうか。」
笑顔の天使が手をわきわきさせながら、魔王へと迫る。
 
とその時、ばぁんと勢いよく扉が開いた。
クィントゥス「よーっす!クルス!」
アルドベリク「よく来た、クィントゥス。」
 
クィントゥス「あ?よお、アルドベリク。 ん?お前なんでここにいんだ。」
代打がきた以上、アルドベリクに着せるのは不可能と悟ったルシエラが残念そうに口をとがらせる。
ルシエラ「ちぇ~~~。」
 
アルドベリクは、噛みしめるようにもう一度同じ言葉を言った。
アルドベリク「よく来た、クィントゥス。」
 
たまたま近くを通りかかり、クルスと学園のことを思いだしやって来たクィントゥスに、
アルドベリクは迷いなく仕事を押しつけた。
 
アルドベリク「安心しろ、お前ならできる。」
クィントゥス「そっか、ならいいけどよー。これ着て女を倒して回るーだっけ?」
クルス「倒す…というか、指導ですね。」
 
クィントゥス「指導ー?そんなのできっかな。」
クルス「大丈夫ですよ。まあ君がそれを自覚しているとは思えませんが、何も考えず戦っても本能的にそうなるので…。」
アルドベリク「ああ、絶対勝てない敵と戦えるぞ。」
 
ルシエラ「むしろ、生徒に殺される可能性が高いんじゃないですか。」
クィントゥス「そっか、じゃあいいや。」
ルシエラ「あ、いいんですね。」
クィントゥス「おうよ!!」
 
アルドベリク「…よし頼んだぞ、クィントゥス。」
アルドベリクは、クィントゥスの存在に心から感謝した。
  
 
参観が終わるのを理事長室で待つ一同の前には、美味しそうな新作の茶菓子とお茶が並ぶ。
仕事を押しつけた責任もある。
律儀な魔王に、先に帰る…などという選択肢はもちろんない。
 
理事長おすすめのお茶請けを、クィントゥス用に包みながら、
ふと、アルドベリクが疑問を口にした。
 
アルドベリク「待て、あいつ…この学院へ普通に入って来たじゃないか?」
ルシエラ「そうですねー。」
クルス「職員にも確認しましたが、正門から入って来たそうです。」
 
アルドベリク「…………。」
仮にもうら若き乙女たちの花園だ。
部外者をあっさり通すとは、いささかセキュリティに不安を感じる。
 
クルスは相変わらずのお人好しに、着ぐるみ内でくすりと笑い、くぐもった声で返した。
クルス「ゴドー卿、ご心配には及びません。普通なら入れませんよ。」
アルドベリク「そうか…。」
 
クルス「職員は彼も今日の集まりの関係者だと思ったそうですし、本人もよくわかっていないくせにそうだと言って通ったそうです。」
何より、あれでも魔界の重鎮だ。
顔を知る職員が、気を利かせたのだろう。
 
アルドベリク「なるほどな。……ん?待て。」
そこでお人好しの魔王は、自分が顔を隠さなければないないなら、クィントゥスも隠すべきではないのかということに気がついた。
 
参観に行くにあたり、先ほどは着ぐるみを着て行ったが…。
堂々と入って来た段階では、特に騒がれてはいない。
 
ということは顔を隠さなければいけないということ自体、自分をからかう嘘だったのではでは…。
それらの疑いが眼差にでていたのだろう。
 
アルドベリクの視線を受け、ルシエラがやれやれとため息つき、口を開く。
ルシエラ「アルさん、通常号と豪華号の違いですよ。」
アルドベリク「は?」
 
クルス「通常号と豪華号の違いですね。」
アルドベリク「は?」
 
ルシエラ「レアリティで言うなら、SSとLくらい違うんですよ。」
アルドベリク「は?」
 
クルス「まあ、参観に行くとなると彼でもまずい生徒がいるでしょうし…だからきちんと着ぐるみは着て行ったでしょう?」
ルシエラ「通常号でも、刺激が強いという子はいるでしょうしねえ。」
アルドベリク「…………。」
 
クルス「とにかく、着ぐるみは必要だということですよ。」
アルドベリク「……………………そうか。」
さっぱりわからなかったが、次に女学院関係の依頼が来たら、絶対他へ回そうとアルドベリクは誓った。