【ストーリー】花踊るティータイム

(※架空/二次SS) エターナル・クロノス
【花踊るティータイム】

  
エターナル・クロノスで過ごす彼女たちにとって、ティータイムは絶対であり、同時に極上の娯楽であった。
とはいえ、変化のない娯楽には少なからず退屈が生まれる。
 
それを危惧した未来の女神は言った。
ステイシー「テーマを決めてさ、特別なティータイム開かない?」
女神の発言に時計塔のメンバーは、一部素直でないものを除き、すぐに参加の声をあげた。
 
仕事の合間を縫い、数日前からそれぞれが今日の為、準備に奔走した。
そうして時はまわり、時間は特別なお茶会へ。
 
分かれたグループごとに、それぞれが<花>にまつわる品を持ち寄ってのティータイム。
それが今回のテーマだった。
 
アリスユッカ「「じゃーーーん!」」
ふたりの少女が両手で掴んだ布を、ばさりと広げた。
 
ルドルフ「これは絞り染めのテーブルクロスですかな?」
アリス「そう!」
ユッカ「すごいでしょ!」
 
大判のテーブルクロスには、緻密な花がそこかしこに咲き誇っていた。
細かく計算された図案はアリスあってのもの、そして繊細に見えて重労働である絞り染めを染め上げたのはユッカの功績だ。
 
ヴァイオレッタ「流石、ユッカは力仕事担当って訳ね。」
ユッカ「いやーそれほどでも。」
ヴァイオレッタ「褒めてないわよ!」
 
アリス「そういうヴァイオレッタたちは、何を用意したの?」
ユッカ「どれどれー。」
ヴァイオレッタ「あっ、ちょ!?」
背に隠していた小ぶりの壺をユッカがさっと奪う。
  
アリス「わー。」
ユッカ「おお~。」
蓋を開けた中に入っていたのは、角砂糖だ。
しかし通常の角砂糖と違い、それぞれの一面に色とりどりの花がぽこりと描かれている。
 
エイミー「これは…アイシングですね。」
アリス「これヴァイオレッタが作ったの?」
ヴァイオレッタ「……全部ルドルフに作らせたのよ。」
ルドルフ「いえ、この一等細かく描きこみすぎているのがマダムの…。」
ヴァイオレッタ「おだまり!」
 
ユッカ「ふうぅん、素直じゃないんだから~。」
ヴァイオレッタ「ふん。 もういいでしょう、ほらとっとと次に行きなさい。」
 
ヴァイオレッタの言葉を受け、テーブルクロスを設置し終えたエイミーがすっと手をあげた。
エイミー「それでは、お言葉に甘え。こちらはミュウ様と私の合作、工芸茶と呼ばれる品でございます。」
アリス「これがふたりの花?」
 
皆の前に差し出されたものは、ごろんとした丸いかたまり。
今の所、<花>とは言い難い形状をしている。
 
エイミー「ふふ、少々お待ちください。」
エイミーは温めておいた透明なティーポットヘふたりの合作を入れ、お湯を注いだ。
 
ミュウ「ショータイムだよ。 えい!」
魔法をかけます!というように、ミュウはポットへ手をかざす。
 
ゆらりゆらりティーポットの中で、丸いかたまりが動きはじめる。
ユッカ「わっ!わっ!」
 
種から芽が出るように、丸いかたまりはほころび、開き…あっという間に赤い花を咲かせた。
エリカ「ふ、子ども騙しですね。とエリカは笑ってやります。」
アリス「もうエリカったら。」
 
ステイシー「へーー、キレイねー。」
セリーヌ「ふんふんふん☆ なんだかお花のいいにおいもするよー。」
イレーナ「紅茶とは違いますが、これもいい香りですね。」
 
エリカ「どうせ見た目重視で味のないお茶なのでしょう。とエリカは悪態をつきます。」
ミュウ「ううん。工芸茶ってね粗悪品のせいで誤解されることもあるけど、ちゃんとしたのは味も香りもすごくいいものなんだよ。」
 
セリーヌ「へええ、見た目も味も香りもいいなんてすごいねー。」
エイミー「もちろん、こちらの味と香りにつきましては。」
ミュウ「エイミーのお墨付き。」
エイミー「はい。」
 
エリカ「さて、茶番はここまでです。最後にエリカがかましてやりますと、とエリカは飛び立ちます。」
マター「是!是!」
バズミィ「まくぞ!まくぞ!」
アムドは静かに見守っている。
 
アリス「エリカってば何するつもッ…。」
ユッカ「わぷ!?」
飛び立ったエリカとバグたちを見上げた先から、ひらひらと風にゆられながら花弁が舞い落ちて来る。
 
どんどん数を増す花弁は白く、まるで雪のようだった。
ミュウ「花吹雪だね。」
 
アリス「すごいけど…これ…どこかから盗ってきたりとか…。」
あまりの量、そして見たことのない花にアリスが少し心配になる。
 
イレーナ「大丈夫ですよ。」
ステイシー「そーそー、ウチらと協力してちゃんとしたルートで仕入れたから。」
 
エリカたちバグの監督もかねて、3女神とバグたちは同じグループだった。
そして最大人数であるこのグループが用意した<花>は、シンプルにも花そのものである生花だ。
 
生花…といっても、手間がかかっていない訳ではない。
花はひとつひとつ丁寧にほぐされ、一枚一枚の花弁へと加工されている。
傷つけないように用意するには、それなりの時間がかかっただろう。
 
わかたれた花弁は、テーブルの上はもちろん、お菓子にも注がれたお茶にも、ふんだんに舞い落ちた。
 
ステイシー「でもまー、ここまで派手にぶちまけるとは思わなかったけど。」
イレーナ「ええ、予定ではお菓子やお茶に添えたり、飾ったりする予定でした。」
 
アリス「お菓子やお茶に?」
セリーヌ「ほれれほっへもほいひいほははなの。」
ミュウ「これ食べられる花だって。」
セリーヌとミュウはさっそく花弁をもぐもぐとほおばりながら、会話している。
 
エリカ「ふん!存分にむさぼり食いやがれです!とエリカはまだまだまき続けます。」
マター「是!是!」
バズミィ「まくぞ!まくぞ!」
アムドは静かに見守っていた。
 
セリーヌ「それにね、このお花…お肌にもとってもいいんだって。」
花弁を咀嚼し終えた女神が、そっとアリスに教えてくれる。
 
アリス「エリカ…本当にもう、素直じゃなんだから。」
季節の節目は時計塔のバグが増える。
その節目を先日終えたばかりの時計塔の面々は、まだ疲労が残っているのだ。
つまりその疲れを気遣ったセレクトなのだろう。
 
ユッカ「さすがアリスちゃん自慢のエリカだね。」
アリス「うん、自慢のエリカだよ。」
まだ空を舞っているエリカを見つめながら、アリスはお茶に落ちてきた花弁をそっと食んだ。