【ストーリー】新規契約精霊 ヴァルキューレ=エネリー

(※架空/二次SS) 喰牙RIZE
喰牙RIZE3のネタバレを含みます。
【新規契約精霊 ヴァルキューレ=エネリー】


 

ラディウス「ハロウィンの続きだよ!」
そうラディウスが言った通り、君たちはこの異界本来のハロウィンに勤しむことになった。
 
エネリーとの戦闘で疲弊していたとはいえ、彼らは手練れだ。
夜に向け数を増したはずのアンデッドも、獣の牙にかかりあっという間に黄泉路へと導かれて逝く。
早々に、穏やかな夜を迎えることが出来たのは幸いだった。
 
そうして落ち着きを取り戻したこの地で、南瓜族が用意した炊き出しを食べながら、君たちは暫しの休息を得る。
 
収穫シーズンも相まって、カボチャ料理だけでなく、とろとろに煮込まれた滋味溢れるカブのスープや、中にぎっしり穀物が詰まった肉汁たっぷりの鳥、甘いキャラメルにくるまれた酸味のきいた林檎など、野外の炊き出しとは思えぬほど、凝った食事が君たちをもてなす。
 
ウィズはまだ食事を止めるつもりはないようで、自分の身と大差ない肉へと、喰らいついている。
その様子を微笑ましく見つめてから、君は賑やかな生者の宴に背を向けた。
 
色づいた落ち葉をわしりわしりと踏み進み、地面に横たわるカボチャに腰掛ける。
少しぼこぼこしているが、座れなくはない。
ふぅと、息を吐く。少し食べすぎた…。
 
喧騒から距離を置いた君は、懐にあったカードを手に取る。
戦闘で高まり、溜まった魔力の淀み…その淀みの中で、君は新たな精霊と契約したのだ。
いや、してしまったというべきか…。
新しい精霊との契約、それは君の精霊魔法を強化してくれる喜ばしいことである。
が…これは、素直に喜ぶべきか…どうか…。
 
ラディウス「お、なんだ魔法使い疲れたのか?」
目ざとく君の行動に気づいたラディウスが、こちらへやって来る。
 
ラディウス「…? 新しく契約した精霊か。」
君はぎくっと体を強張らせた。
どうしたものかと逡巡していた隙に、手元にあったカードはあっさりと獣の瞳に捕らわれる。
 
ラディウス「……へーーーー。おい魔法使い、ひとつ腕試しといこうじゃねえか?」
冗談でしょ!?っと君は言った。
ラディウスはもちろんのこと、君も先ほどまで戦っていたのだ。
へとへとである。
しかも君は魔道士だ。
過去同じ魔道士だったとはいえ、現在戦士として鍛えているラディウスのような体力を持ち合わせたつもりはない。
 
ラディウス「謙遜すんなよ。前から思ってたんだが、あんた魔道士のわりに体力あるよな。」
数多の雑用をこなしていた成果か…。
はたまた度重なる異界移動で鍛えられたせいか…。
君はちょっと切なくなった。
 
巨大な箱を持って塔を駆けあがった覚えもある…が…。
しかし、自分はあくまでも魔道士。
筋肉を極めるつもりはない。
脳裏に黄金の筋肉が浮かんだが、それも無視する。
 
ファルク「いいですね。俺も付き合いますよ。」
カボチャに座る君の頭の上から声がした。
音もなく背後にいたファルクが、ラディウス同様、君の手元のカードを見て、戦意を露わにする。
 
ウ、ウィズ!!頼みの綱とばかりに師匠へと視線を送ったが、相変わらず料理に夢中なようで、弟子のSOSに気が付いてはくれない。
 
ラディウス「さあ見せてみな。新しく手に入れた、てめえの牙をよ!」
ファルク「ぼっこぼこにしてやりますよ。」
八つ当たりだよね!?っと君は叫ぶ。
 
ファルク「んなこと、ねーですよ。」
ラディウス「そうそう、せっかく手に入れた精霊だ。使ってやれよ。」
 
武器を構え、じりじり近づくふたりから、君は逃げることにする。
ばっと立ちあがると同時に、ふたりに背を向け力いっぱい走…ろうとしたが、ローブの首元を引っ張られ、ぐえっとなった。
逃走はあっさり失敗する。
 
君はしぶしぶ覚悟を決め、ローブを掴む獣へ、魔力を少しだけ込め魔法を放った。
当然、その攻撃はラディウスにも、ファルクにも当たらない。
だが、それが合図だとばかりに、戦闘は開始された。
 
イルーシャ「あらあらあら、仲良しさんね~。」
ウィズ「にゃはは。私の弟子は異界愛され系魔道士にゃ!」
君たちの攻防を遠目に捉えたふたりが、食事をしながらのんきな感想を告げた。
 
動きこそ先の戦闘と変わらない速さだが、ラディウスとファルクの顔には笑みが浮かび、
子犬たちがじゃれあっているようにも見える。
 
しかし、これはあくまでウィズたちから見ての感想だ。
 
とうの君は、正直勘弁してください!と思っていた。
ちょっと涙目である。
契約してしまった精霊魔法を発動させながら、やけくそのように言った。
ハッピーハロウィン!