【ストーリー】知り合いのほとんどいない飲み会

(※架空/二次SS) FairyChord
【知り合いのほとんどいない飲み会】


 
ソウヤは心の中でふぅ…と深いため息を吐いた。
もしこの場にフェアリーコードを聞けるものがいたならば、自分の心情を理解してくれたろうかと、意味のない事をつらつらと考える。
 
ソウヤの重い心とは逆に、周囲はざわめき、そして盛り上がっていた。
 
只野茂武「ソウヤ先生ー、飲んでますかーー?」
ひとり距離を置くソウヤに、酒で少し呂律がまわらなくなった青年が声をかける。
 
ソウヤ「…あ、あぁ。」
とりあえず、手に持っていたグラスをそっと口に運ぶ。
会話を減らす手段になればいいと、半ばやけくそに氷も口に入れたが、
室内の熱気で小さくなっていた氷は、かりっと軽い音を立て、あっという間に消えてしまった。
 
その行動を見ていた青年が、羨望とも見える眼差しを向け、大きめの声をあげる。
只野茂武「はーー!ソウヤ先生ーって何かスゴイですねー。大人の色気?高貴な身分ってやつですかね? あー生徒にも人気ありそうで羨ましいっすよー!」
年下であろう青年に、ソウヤは苦笑で返答を誤魔化した。
 
先ほどから幾人かと、当たり障りのない会話はしている。
そのどれもが数回のやり取りを得て、途切れてしまう。
 
とてつもない気まずさだ。
今もまた…ほぼ一方的な会話になってしまった青年の話を、笑顔で流しつつ、少しずつグラスの中の液体を嚥下している。
水分を取っているはずなのに、喉の渇きは増していくばかりだ。
 
この飲み会は比較的年若い近隣教師たちを中心とした、情報交換も兼ねたお疲れ会のような集まりらしい。
“らしい”というのは、ソウヤが本来の参加者ではなく、それ以上詳しい情報を知らないからに他ならない。
 
本来行く予定である同僚の都合が突如つかなくなり、その代理を頼まれたのだ。
代理とはいえ、席を共にするのは同じ職業に就く同士たち。
 
何とかなるだろうと、軽い気持ちで引き受けた。
しかし、知り合いのほとんどいない飲み会は、ソウヤにとって思った以上にハードだったのだ。
 
日常的な会話から交流をはじめてみるも、何かズレを感じる。
周囲は気遣ってくれるものの、会話の流れが明らかに自分のところで滞る事が何度もあった。
  
先ほど、話をしていた青年もまた会話が途切れ、既にソウヤの元から去っている。
このままではいけない…。
ソウヤはこちらへ近づいてくる女性へ、全神経を傾けた。 
 
ソウヤ「…………ッ。」
音が変わる。
鮮烈にして孤高なる闘志を秘めた、麗しき血華の音色へと。
 
今だ!と、ソウヤは口を開いた。
ソウヤ「……あの、すみません。」
 
騒がしい音が溢れるこの場で、彼女に自分の声が届くかは微妙なところだろう。
ソウヤ「(…届かない…か?)」
妙な緊張を感じた数秒のち、ソウヤの方へ女性の顔がぱっと向いた。
ソウヤの意図にすぐ気づいた女性は、にこやかに言葉を返す。
 
店員の女性「…あ、ご注文ですね。 ヨロコンデー!」
ソウヤ「(よしッ!!)」
己を鼓舞し、ソウヤが行った事は、別の用事で近づいてきた店員への追加注文だった。
 
知り合いのほとんどいない飲み会。
それはソウヤにとって、過酷な試練であった。