【ストーリー】おおよそ月2…

(※架空/二次SS) エス=アリアス
【おおよそ月2…】

 
君は『雪降る町ヴェルタ』を歩いていた。
ずもりと雪を踏みしめる感覚に、以前ここを訪れた時の記憶がよみがえる。
 
既視感を覚えながら、大きな構えの門を抜け、図書館へと入った。
受付にいたキーラが、君に気づき顔を上げる。
キーラ「あら?」
これ依頼の品ですと、君は雪に濡れないよう懐へしまっていた本をキーラに渡した。
 
キーラ「まさか、キミが依頼を受けてくれていたなんて…。」
“黒猫の魔法使い”の多忙さはキーラにも伝わっている。
 
駆け出しの魔道士がする、雑用じみた依頼を受けてくれたとは思わなかったのだろう。
-魔法使いは人々の奉仕者たれ-
師匠の教えだから、と君は笑う。
 
キーラ「本当…ウィズにはもったいない、よく出来たお弟子さんね。」
君の肩にのる黒猫へ向け、彼女がくすりと笑った。
 
ウィズ「にゃー。」
黒猫…ウィズは、ただの猫には関係ないとばかりの態度だ。
 
キーラ「まったく…。」
それじゃあ、と扉から出ようとする君に、声が掛かる。
キーラ「待って。せっかくだし、温かいお茶でも飲んでいかない?」
御馳走するわよ、とキーラが勧めてくれた。
 
キルドから正当な報酬は出るが、それとは別に礼がしたいのだろう。
彼女の優しさに心が揺れる。
 
どうしようか?と視線で問いかけるより先に、ウィズがキーラの足元へ移動した。
ウィズ「にゃっ!」
雪で体が冷えたから、温まりたいといった所だろうか?
 
なんにせよ、師匠の決定に逆らうつもりはない。
御馳走になります、と君は頭を下げる。
 
ここではお茶を入れられないからと、書庫に隣接した小部屋へ案内された。
室内には、キーラがお茶の準備をする音だけがしている。
会話は途切れていたが、その沈黙はとても心地いい。
 
ととととっカップへお茶が注がれる。
ほわりと湯気が上がり、茶葉の香りが広がった。
 
キーラ「黒猫さんには、こっちかな?」
と、今入れたお茶ではなく、横にあった冷たいミルクをウィズへ差し出す。
ウィズ「にゃにゃ!?」
キーラ「ふふ、冗談よ。」
はい、どうぞとウィズの前に置かれたのは、普通の猫が飲まないであろう温かいお茶だった。
間口の広いカップから美味しそうに飲むウィズを見て、君は苦笑した。
 
君の前にも、ことりとお茶の入ったカップが置かれる。
どうもと言って、君は口をつけた。
 
思ったより、体が冷えていたようだ。
喉を通る液体が、体に染みる…。
 
キーラ「そういえば、キミ…異界の歪みにのまれるのが趣味って本当?」
君はお茶を吹き出しそうになった。
誤解です!
そんな趣味を持ったつもりはない…。
 
ギルドマスターとして、そんな危険な趣味は諫めねば!とでも思っていたのか、キーラの口調は、君を責めるようだった。
 
確かにしょっちゅう異界に移動し、騒動に巻き込まれているが、その殆どは自分の意志で行った訳ではない。
君の必死さが伝わったのか、キーラはすぐ誤解を解いてくれた。
 
自分でも、どうしてこんな頻繁に行っているのか…よくわからないんですと、ややげっそりしながら告げる。
 
キーラ「異界の管理者とか、異界そのものの自浄作用みたいなものに、目をつけられでもしたのかしら?…何かキミ、変なものに好かれそうに見えるし。」
さらに暖を取ろうと、君の膝の上に移動しようとしていたウィズへ、キーラが視線を向けた。
 
ウィズ「にゃにゃ!」
変なもの扱いされた師匠が、思わず抗議の声を上げる。
 
キーラ「でもそれがキミの…“黒猫の魔法使いの強さ”に繋がっているのかもね。」
どういうこと?と君は訊く。
 
キーラ「直接異界の精霊に会っている魔道士なんて、そうそういないもの。」
確かに…そうかもしれない。
彼らと共に過ごした時間が、君の魔法をより強力なものへと変化させているとも考えられる。
 
キーラ「あるいは、キミがクエス=アリアスで契約した精霊との結びつきが強くなった為に、その異界に喚ばれてしまうのか…。」
これも普通はありえないけど、とキーラは笑った。
 
言われてみれば、異界で会った“仲間”は、初対面でも友好的なことが多い気がする。
これは精霊魔法を媒介に、彼らと心を繋いでいることが、少なからず影響していたのだろうか?
 
キーラ「順序はその時々で違うだろうけど、その循環がキミの強さなのかなって?」
なるほど。
キーラ「どちらにせよ、推測の域は出ないけど…。」
いや、流石ギルドマスターだ、と君は思った。
 
膝の上の師匠も、一見興味なさそうにそっぽを向き丸くなっているが、耳はぴんっとキーラの方を向いているのだ。
ウィズも興味深いと思っているのだろう。
 
キーラ「さて、話が長くなっちゃったわね。…せっかくだし、もう一杯どうかしら?“黒猫の魔法使い”さん。」
頂きますと君は言った。
 
キーラが再び、お茶を入れようと背を向けた瞬間、ぱっと室内に光彩が舞う。
ウィズ「にゃ!?」
キーラ「っ!?」
 
光が消えたあと、黒猫と魔法使いの姿は消えていた。
キーラ「……本当に、突然行ってしまうのね。」
 
ちゃんと膝にいた黒猫と共に、移動したので心配はしていない。
が…。
キーラ「ふらっといなくなっちゃうのは、師匠譲り…かな?」
 
自分ひとりになった室内で、消えたふたりへ思いを馳せる。
キーラ「いってらっしゃい、黒猫さんと魔法使いさん。」
 

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