【ストーリー】納涼メアレス

(※架空/二次SS) 黄昏メアレス
【納涼メアレス】お子様と女性は安全に、ご参加頂けます。


 

黄昏を越え、時刻は夜へと変わる。
熱を放つ陽は落ち、幾分マシになったとはいえ、うだるような暑さはまだ健在だ。

 

汗で肌に纏わりつく衣服に不快を感じながら、レッジは歩いていた。
彼が呼び出されたのは、都市近くにある緑地。
一見すると鬱蒼とした森にも見えるそこに、見知った面々が揃う。

 

リフィル「来たわね…。」
都市の光が届かぬ地で、リフィルの顔を手元の燭台が一際怪しく照らした。

 

レッジ「おい、内密にしたい話とはなんだ…?」
真面目な話し合いに呼ばれたかと思いきや、周囲の空気は鋭くも尖ってもいない。

 

ミリィ「え?いやいやいや、レッジさん聞いてないんですか?」
ゼラード「あーーなんでもよ、俺らを労う納涼会とやらをやるらしいぜ。」
それは<ロストメア>との戦いを控えているリフィルなりの気遣だった。
共に闘った縁の深い戦友への労いである。

 

ただし自らの懐が痛まないよう、
出資者としてアフリト翁もちゃっかり巻き込んでいる。

 

リフィルと共に主催側として参加しているリピュアが、集まった面々を見て満足そうに頷く。
リピュア「レッジが最後だったから、これで全員揃ったよ!」

 

ミリィ「あれ?今都市にいてリフィルさんと馴染みが深い<メアレス>に声掛けたんですよね?」
ゼラード「馴染み深いねぇ、するってぇと…。」
ミリィ「あたしと…ラギトさんとー。」
レッジ「…俺?」
コピシュ「それにお父さんに、わたしですね。」

 

ミリィ「あれ?でもラギトさんいないっすね?
……ぅうううぅぇええええ!?まさか本当は馴染みが深くなかったとかそういう!?
『アイツ~実は呼ぶほど仲良くないんだよな~』とかの、人間関係が浮き彫りになるアノ現象?!」

 

ゼラード「おいおい、そういうのは<魔輪匠(ウィールライト)>の担当だろ。」
レッジ「…………。」
コピシュ「お、お父さんっ!」

 

リフィル「安心して。彼なら『俺程、バケモノの適任はいないだろう』と、脅かし役としての参加よ。」
ゼラード「……なぁ笑うところかそれ?」

 

リフィル「準備をしながら『俺は“これ”でいい』とも言ってたわ。」
ミリィ「反応に困る!」
コピシュ「で、ですね。」

 

レッジ「ん…待て、脅かし役とはなんだ?」
リフィル「なにって、これからするのは納涼・肝試しだもの。脅かし役も必要でしょう?」

 

レッジに対し一切の説明をせず、呼び出した少女はさも当然かのごとく言い放った。
そして流れるように、説明に入る。
リフィル「これからふたりずつに分かれ、この道を進んでもらうわ。
戻るまでの時間を計り、早い方が勝ちよ。」

 

コピシュ「あ、勝負要素もあるんですね。」
リピュア「道の途中に、かき氷があるから!それを食べてから戻って来てね!」

 

ミリィ「おぉっ、この時期に氷とは贅沢っすねー。」
リフィル「以前、魔法使いに出してもらった氷を、氷室に保存していたの。
先ほど削り終えて、道の中間地点へ設置したわ。」

 

リピュア「氷は私が魔法で出すっていったのに~。」
リフィル「意思を持ち、喋る氷を削る趣味はない。」
コピシュ「普通のかき氷でよかったです。…でもこの暑さじゃすぐ溶けちゃうんじゃ?」
リフィル「そうね、多少保つようにはしてあるけど、早く行かないと溶けるわ。」

 

レッジ「何故、かき氷…。」
リピュア「肝試しで心を!かき氷で体を!!両方涼しくしちまおーぜ旦那ぁ!作戦だよ♪」
リフィル「そういうことよ。」

 

レッジ「…くだらん、俺は帰るぞ。」
リフィル「ふうん、リタイヤということね?」
レッジ「不参加だ!」
リフィル「不参加は認めないわ。参加しなければ自動的にリタイヤ…、最下位が受ける罰ゲームを受けてもらう。」

 

コピシュ「罰ゲーム、ですか?」
リピュア「すっごいよー。リフィルが作った特製のね~!」
リフィル「やるからには、中途半端で止まれるものか!」
レッジ「止まれ!!!」

 

ゼラード「言ったって、子供のお遊びだろ?楽しめよ<魔輪匠(ウィールライト)>。」
コピシュ「そうですね。わたしもちょっとドキドキというかワクワクしてきました!」
ゼラード「お?じゃ俺たちから行かせてもらおうか。」
コピシュ「はい!お父さんとわたし、後続がミリィさん、レッジさんですね。」

 

リフィル「戻って来るのが遅かったチームのどちらかひとりが罰ゲームよ。」
ゼラード「へいへい、じゃ行きますか。」
コピシュ「アイアイ!」

 

歩み始めたコピシュの足音は、軽く嬉しそうな音を奏でる。
その音を包むように、ゆったりとしたゼラードの足音が続く。

 

親子を照らす燭台の灯りは、あっという間に緑の闇へと消えて行った。
その情景に少し不気味さが混じり、非日常感が増す。

 

自分より年下の少女が楽しみにしているイベント。
これ以上、声を上げ反対するのは、子供じみている気がする。
くそッ仕方がない、とレッジは帰宅を諦めた。
相変わらず、衣服が肌に張り付き不快だ。自然、眉間の皺も深くなる。

 

ふたりが出発し、しばし残りの面々の会話が止んだ。
虫の声や、木を揺らす風の音が微かにするものの、それは逆に不思議な緊張感を高めて行く。

 

ミリィ「…それらしくなってきましたねー。」
この空気を楽しむように抑えた声でミリィが囁く。

 

レッジ「そう言えば、ふたりが戻って来るまで俺たちはここで待機か?」
リピュア「ううん、道はこうぐるぐるぐる~っと輪っかになってて…。」
リフィル「行き帰りがぶつかることはないわ。」
ミリィ「だと、あたしたちもそろそろ出発ですか?」
リフィル「えぇ…そうね。」
レッジ以外は、ひそひそと聞きとり辛い程の囁き声での会話だった。
明らかに雰囲気作りを意識している。

 

レッジ「………。」
とその時、闇の先からゼラードの雄々しい声が響いた。

 

レッジ「っおい!?なんだ、今のは?!」
ゼラードが娘の前で…、悲鳴ではなかったが、大きな声を上げるなどあるだろうか?

 

リフィル「肝試しよ。声が上がるのは当然でしょ?さぁあなたたちも行きなさい、氷が解ける前に。」
レッジ「だからなんで、同時にした!」

 

リピュア「肝試しで心を!かき氷で体を!!両方涼しくしちまおーぜ旦那ぁ!作戦だよ♪」
肝試しが終わってから、かき氷を食べるのでは駄目だったのかという、至極真っ当なレッジの意見は黙殺された。

 

ミリィ「まーまーレッジさん、こういうのは楽しんだもん勝ちですって。ほら行きますよー。」
レッジ「………。」
ミリィに背を押され、しぶしぶレッジも歩み始める。

 

リピュア「いってらっしゃ~~い!」
リピュアとリフィルの顔はふたりの手元にある燭台の光源のせいで、不気味に照らし出されていた。

 

そうして見送られて間もなく、さらに闇深くなった夜の空にレッジの悲鳴が上がる。

 

リフィル「流石は<夢魔装(ダイトメア)>、いい仕事するわね。」
満足そうな主催たちの笑みは、やはり燭台で照らされとても禍々しかった。
 

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