【ストーリー】9720(税込)×3

(※架空/二次SS) 空戦のシュヴァルツ
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空賊≪ナハト・クレーエ≫では、船員誰しもが平等に家事を行う。
お頭である、ジーク・クレーエといえど例外ではない。

 

ジークは渡された洗濯物を干すため、艦内の干場へ向かった。

 

目に刺さるような光が飛び込んでくる。
ひゅるひゅると風が肌を抜けて行く。
この天気なら洗濯物はすぐ乾くだろう。

 

髑髏諸島に停泊していたままなら乾きにくかったかもしれないが、
そこから飛び立った今、生乾きの恐怖はない。

 

ジー「……飛ばされないようにしないとな。」
ぱんっと音をたて、洗濯物の皺を伸ばしたところで、
目があった。

 

ジー「………。」
つい…と視線を逸らし、見なかったことにする。

 

そうして、次の洗濯物の皺をぱんっと伸ばす。
再び目があった。

 

ジー「……………。」
本来なら目が合うことなどないであろう、洗濯物と目が合ったのだ。
二度も――。

 

流石に無視できない。

 

カルステン「お、どうした相棒?」
洗濯物を手に固まっているジークに異変を感じたのか、通りすがりのカルステンが声を掛けた。

 

そして、ジークが手にしていた洗濯物と目があった。
カルステン「………。」

 

ジー「……何か言え。」
カルステン「え?いやいやいやいや!俺は相棒の趣味にとやかく言う気は…。」
ジー「………おい。」

 

カルステン「冗談だ、冗談!…にしても凄いシーツだな。」
褒めたつもりなのか、ひゅうっとカルステンの口笛が虚しく響く。
ジー「…誰のだ。」
ジークとてカルステンと同じで、船員個人の趣味をどうこう言うつもりはなかった。
だが、ぱんっと新たに皺を伸ばしたシーツ…つまり3枚のシーツと目が合ってしまったが故に――。
持ち主を特定し、文句を言いたい気分が増したのだ。

 

甲板に、はためく3枚のシーツには、
ドルキマス国元元帥ディートリヒ・ベルクが、こう…なんというか妖しく麗しい感じで描かれていた。
とてもでかでかと、シーツ全面に――。

 

ジー「……お前のか?」
カルステン「なわけあるか!?」
ジー「冗談だ…。」

 

ハルトゲビス「どうしたでゲビス?」
甲板にいる二人の元へ、新たに通りかかったハルトゲビスがやってくる。

 

カルステン「あーこれ、なんだけどなぁ。」
洗濯物を指さし、持ち主を知っているか問おうとした――。
ハルトゲビス「それは肌触りがいいとかでお勧めされたので、買ってみたでゲビス。」
…所で耳を疑う、返答が返ってきた。

 

カルステン「………。」
ジー「……………。」
カルステン「…って!?おい!?いやいや機械に肌触りも糞もないだろ!?」
ジー「金髪野郎のスカした笑顔、寒気がする…。…棄てろ。」
勝手に廃棄しないあたり、≪ナハト・クレーエ≫のお頭は優しかった。

 

ハルトゲビス「嫌でゲビス。さらりとした肌触りが気に入っているでゲビス。」
カルステン「………。」
ジー「……………。」
カルステン「いや、だから機械で肌触りとか気のせいだろ。」

 

ジー「…さらりとした肌触り、まさか高級品なのか?おい、いくら使った…。」
カルステン「ぅおい!相棒!?そこ食いつくのかよ!」
ハルトゲビス「それは言えないでゲビス。」
ジー「……………。」
ジークの機嫌が下がるのを感知したカルステンは、話を切り上げようと頑張った。

 

カルステン「ま…まあな!別にシーツとして使えんだし、この際柄は良しとしようや!」
ただし方向は間違っていた。
だいぶ――。

 

ハルトゲビス「なんならお頭に売ってあげてもいいでゲビス。」
何故か自慢げにハルトゲビスがシーツ商談を持ちかけてくる。
ジー「……いらん。」

 

くだらないやりとりが続いたせいか、ジークの気持ちももうどうでもいい面倒くさいモードに移行してきた。
ぐだぐだになりやすいのは、≪ナハト・クレーエ≫の日常である。

 

 
≪ナハト・クレーエ≫号から、少し離れた空域にて―。
遠眼鏡で彼方を見ていた少女が、不思議そうな顔をしていた。
???「…どうしたのですか?」
少女の異変を察知し、横にいた女性が声を掛けたが、
返ってきた答えは要領を得ず、少女の独り言かの如くか小さい。

 

???「…ジークって意外なものが好きなんだね。」
先ほどの光景を、とある空賊の船員が見ていたことを≪ナハト・クレーエ≫の一味はまだ知らない。
 

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