【ストーリー】黎明ロストメア ―if―

(※架空/二次SS) 黄昏メアレス
黄昏メアレス4ネタバレを含みます。(2019/7/5文章調整追加)
【黎明ロストメア ―if―】

 
フィネア「はぁはぁっ…!」
馬鹿だ。
この都市には、怪物がいると知っていたのに…。
呑気にも露店の品に気を取られた挙句、ふたりの同行者とはぐれ、
まさにくだんの怪物…<ロストメア>に追われている。
 
入り組み薄暗く細い路地を右へ左へ…。
がむしゃらに駆け抜け、もはや自分がどこにいるかも、どこを目指しているかもわからない。
 
フィネア「あっ!」
何回目かの角を曲がったところで、ずだぁんと派手な音をたて、地面へ倒れ込む。
こんなところで終わってしまうのだろうか?
弱虫で意気地なしの自分が、異形の怪物から逃げようと動けただけ、成長したと満足し…諦めるべきか…。
 
フィネア「ううん…負け…ない…負けたくないっ!」
擦りむいた膝の痛みと連動するように、カッと想いの灯火が強くなる。
 
こうなってしまっては、<ロストメア>に追いつかれるのは時間の問題だ。
それなら!
“敵”に背を向けたたままでいたくない。
そんな小さな反抗心を糧に、地面から一気に立ち上がり、<ロストメア>へと体を向ける。
 
フィネア「ッ…。」
リフィルから師事を受け、魔法を覚えたとはいえ…、
自分が<ロストメア>と戦えるかもわからない。
 
フィネア「それでも!!」
今まで背を向け走っていたせいでよく見えていなかった<ロストメア>の姿を、しっかり瞳に捕える。
 
迫り来るのは、紫色で雫を崩したような形をした<ロストメア>。
歯と手だけ人間のような形をしているのが、なんとも不気味だ。
その外見だけなら、以前自分がさらわれた<ボウノウン>とも似ている。
…そのせいだろうか?
不思議な既視感を覚えた。
私は<ロストメア>を知っている?
 
いやとフィネアは否定をし、魔力を練る。
フィネア「修羅なる下天の暴雷よ。」
何を馬鹿なことを…知っていて当然だ。
この都市に来てから<ロストメア>も、それだけでなく<ボンノウン>だって何度も見ている。
 
いや…そうじゃない。
そういうことじゃない。
再び否定を重ねる心が自分でもよくわかない。
今は魔法に集中すべきなのに…。
 
心が騒ぎ、邪魔をする。
そう、知っている…でもこれは“仲間”じゃない。
ただ門を目指し“仲間”をも喰らう怪物。
 
???「こっち!!」
思考に気を取られていたフィネアの手を誰かが掴む。
フィネア「え?…あっ。」
同時に、魔法も霧散した。
 
???「<ロード>あとをお願い。」
???「ああ。」
フィネアの手を引く少女に頼まれ、長身の男がフィネアたちと<ロストメア>の間に立ちはだかる。
 
???「行きましょう。」
フィネア「え、でも……。」
 
???「彼なら大丈夫。ごめんなさい、私の力じゃ助けられないの。今は一緒に逃げて。」
フィネア「は、はい。」
少女の様子を見て、自分がここにいては邪魔になることは察せられた。
繋がれた手に導かれるまま、歩き始める。
 
何度も路地を曲がった果てに、大きな通りへと出た。
今までいた路地と違い、直接当たる陽の眩しさに目が眩む。
遅れて人のざわめきが、耳に入って来る。
泡がはじけるように、一気に夢から覚めたような、なんとも言えない心地だ。
 
クラース「フィネア!」
ダリク「よかったー無事だったか、心配したんだぜ。」
はぐれたフィネアを捜していたふたりの同行者、クラースとダリクが運よく彼女を見つけた。
 
そんなふたりの姿を見て、フィネアと手を繋いでいた少女の手が震える。
???「………願い主。」
 
クラース「…………。」
ダリク「…あんたひょっとして。」
ふたりはフィネアの怪我に気づき、少女に敵意を向けた。
 
<メアレス>として活動をしているクラースとダリクだ。
フィネアといる少女が<ロストメア>だとわかる手段は持っている。
 
そして魔法を学んだフィネアも彼女の正体に気がついていた。
もちろん彼女の仲間の男がそうだということも…。
 
フィネア「あ、あの!違うんです。この人…は、迷子の私を助けてくれただけで!怪我は、私が勝手に転んじゃっただけで!!」
クラースとダリクが臨戦態勢へ移ろうとするのを感じ、フィネアは早口で状況をまくしたてる。

実のところ、怪我は路地の<ロストメア>に追われたせいで負ったものだったが、この場では必要ないと切り捨てた。
今は何より彼女が“敵“ではないと、わかってもらうほうが先だ。
 
クラース「落ちつけフィネア、大丈夫だ。」
ダリク「や、なんつーかその疑って悪かったよ。俺たちのツレが迷惑掛けたな。」
クラース「ああ。彼女を助けてくれたこと、感謝する。」
フィネアの態度に、警戒する相手ではないと悟ったふたりの態度が軟化する。
 
???「いいえ、ちゃんと合流できてよかった。それじゃあ私も待たせている相手がいるから…。」
フィネアと繋がれた手はあっさり解かれ、少女は出てきた路地の中へ戻ろうとする。
 
フィネア「あ、あの名前!名前教えてくださいっ!!」
踵を返そうとした彼女の服を思いっきり掴んでしまった。
 
どうしてここまで必死になっているのか…?
違和を感じながらもこのまま別れたくなくて、必死に縋ってしまった。
 
フィネアの突飛な行動に驚きもせず、少女は優しく名前を教えてくれる。
???「私は<ピースメア>。」
 
ダリク「いやいやーメアって…それ俺たちに言っちゃっていいのかよ。」
クラース「ダリク。」
へいへいとダリクが肩をすくめる。
 
フィネア「…いい…名前ですね。」
何故だろう…名前を聞いて胸が熱くなる。
ピースメア「ありがとう。あなたにそう言ってもらえて…すごく嬉しいわ。」
 
彼女、<ピースメア>の顔は言葉の通り嬉しそうなのに、どこか泣くのを堪えているようにも見えた。
そんな彼女の笑みを受け、このまま別れたくない気持ちが強まる。
 
フィネア「あの!私たち今この都市住んでいて!それで…それであのですね!だからっ!!」
クラース「そうだな、今回の礼もしたい。」
ダリク「今度あんたのツレもあわせて、みんなで会うってのはどうだ?」
言葉がうまく紡げないフィネアを助けるように、クラースとダリクが会話を引き継ぐ。
 
ピースメア「ええ、是非。」
ふわりと微笑んだ<ピースメア>の顔は先ほどと違い、憂いを感じさせないものだった。
 
その後、ほんの少しだけ話をしてから、フィネアたちは別れた。
嬉しそうに手を振ってくれるフィネアを背にし、<ピースメア>は路地へと入って行く。
 
ピースメア「<ロード>、見てた?」
狭い路地を進む<ピースメア>に、長身の男が近づく。
 
ロードメア「ああ。」
ピースメア「今度ね、みんなで会おうって。ふふ、約束しちゃった。」
ロードメア「俺もか?」
ピースメア「もちろん。」
ロードメア「……複雑、だな。」
ピースメア「そんな嬉しそうな顔しておいて?」
 
指摘され<ロードメア>は渋面を作る。
自分は彼女たちと表立っては関わりを持つつもりなどなかった。
 
そして今…近づくべきでないと思う一方で、会える機会に喜んでしまっている。
しかし会えば、面影を重ねずにはいられない。だからこそ複雑なのだ。
 
ロードメア「…“あいつら”とは、別の存在だ。」
自らに言い聞かせるように、言葉を放つ。
<ロードメア>の内心を察し、<ピースメア>は、くすりと笑う。
 
ピースメア「<レベルメア>たちは、(めぐ)”ったのでしょう?」
ならば “同じ”ではないが、別の存在とはいえない。
彼だって、わかっているはずだ。
 
<レベルメア>たちの想いは、彼女たちへと受け継がれ生きている。
もっともその繋がりが、逆に<ロードメア>を悩ませているのだろうけれど…
 
と、そこまで考え<ピースメア>は、ああと思いつく。
ピースメア「孫でどうかしら?」
 
ロードメア「……なんだと?」
ピースメア「孫に接するような心構えで会えばいいんじゃないかしら?」
ロードメア「………それは…それで、複雑だろう。」
ピースメア「そうかしら?」
 
ロードメア「いや、だが…そうだな……。」
虚を突かれたが、その距離は悪くないのかもしれない?
 
ロードメア「……孫、か。」
ピースメア「ふふ、次会うのが楽しみね。おじいちゃん。」
ロードメア「…………………ああ。」
 
その後、<ロストメア>が門を通らず、別の手段で救われる道を支援する組織が結成される。
組織設立には、<ロストメア>だけでなく、幾人かの人間が深く関わっていたらしい、が……
詳しいことは、記録が残っていないため定かではない。
 

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